January 30, 2016

プログレッシブ教育(4) ヴィゴツキー

Lev Vygotsky レフ・ヴィゴツキー(Born in Russia, 1896~1934)

アメリカではピアジェの人気の影に隠れてしまった感のあるヴィゴツキー、38才の若さで亡くなっていますが、彼の教育理論はイタリア、レッジョ・エミリアでの教育などに取り入れられ最近注目をされるようになりました。

ロシア、ベラルーシの中流ユダヤ人家庭に生まれたヴィゴツキーは、モスクワ大学を卒業後、中高の文学の教師になり、この経験が、どうやって人間が学ぶのか?教師はどうあるべきか?を探求しはじめるきっかけでした、特に認識発達と言語発達、双方の学習における関係性に興味を持ちました。

ヴィゴツキーは心理学の領域に特別な訓練をせずに参入したため、子どもの発達について、非常に新鮮で斬新なアイデアを提示したので、現在でもその哲学は論争の的になっています。ヴィゴツキーは知能テスト測定結果のみで子どもの能力を決めることを否定しています。知能テストの結果(Quantitative Research:数量で測ること)と同様に、子どもについての注意深い観察結果(Qualitative Research:性質を調べること)が重要であると言います。

長い間、ピアジェの理論から、子どもは個人的な活動から自己を形成していくと考えられていたが、ヴィゴツキーは初めて、子どもは個人での活動と同時に子ども同士での関わり(social interaction)から社会的・認識的発達を相互に築くことを唱えました。個人的な活動と、社会的な活動は分けて考えるべきではなく、子どもを取り巻く家族、学校、地域、教育、文化、社会経済的な環境すべてから人間は形成されていく。どんな家族・友人に囲まれていたか、どんな学校に行ってどんな信条の元で育ったかが人間形成に反映される。子どもは子ども同士から毎日学んでいる。彼らは言語スキルを友人同士から学び、新たな考えを話し、聞くことで吸収する

ピアジェと同様、ヴィゴツキーも子どもは遊び(Play)から学ぶと信じました。子どもは遊びの中で言語と人間的成長を相互的に発展させる。

The Zone of Proximal Development (ZPD)発達の最近領域
 



ヴィゴツキーが提唱したアイデアの中で最も重要なものがこの「発達の最近接領域」というもの

ZPDとは、子どもが誰かの助けなしでひとりでできることと、誰かといっしょにやったり、ちょっと手伝ってもらったりしたらできることの差の領域のこと。ヴィゴツキーはScaffolding(足場)という専門用語も理論の中で使用していて、これは教師や友人からの助力を意味します。まわりの人を足がかりにして今の自分よりも更に限界を伸ばすことができるということ。限界を日々伸ばしていくことが人間の成長です

個人的に上記の存在を実感することがあります ー 去年娘を転校させたことで、彼女ができること・理解力・集中力・感性すべてが飛躍的に伸びてるのです。先生や周りの友人のレベルが(いろいろな意味で)アップしたので、本人の中に眠っていた才能が目覚めた、というようなイメージ。楽器やスポーツなど校外アクティビティでも、先生やチームを変えたら格段に本人のレベルも上がることはよくあると思います(錦織選手がコーチを変えてから飛躍的にメンタル・技術が上がったように)。人間って本当はもっともっと上達するんです、適切な環境や助力があれば

モンテッソーリやピアジェと同じく、ヴィゴツキーも観察(Observation)を非常に重要視しています、まずは目の前の子どもありき、ですね。子どものZPDを正確に判断するにはその子が言ったりしたりしている事を詳細に観察する必要があります。

ピアジェは身体的発達と認識発達が相互作用していると考えたので、ある段階にいる子どもはその段階から次にステップアップしない限りはできない事があると考えました。

しかしヴィゴツキーは認識発達は身体的な発達だけでなく周囲との関わりにも影響されると考えたので、その子どもひとりではできなかった事も、もう既にそれができる友人や大人の助力で可能になる事はたくさんある、だからよく本人のレベルを観察して、さらに能力を引き上げるようなカリキュラムを与えるべきだと考えました(できることばかりやらせるのではなく、ちょっと難しい課題を与えてどんどん限界を引き延ばすことが可能という考え)そのためには今の本人の能力を正確に判定する観察が必要不可欠ということです。

また、ヴィゴツキーは、学習と発達は似ているものの同じではないと考えました。(上記ZPDも発達に関してであって、学習能力のみを語っているのではないということ)適切な指導と本人の成長発達を大切にする、この2つの適切なコンビネーションが学びを最大限にすると考えました。


(プログレッシブ教育1〜4に関する出典はこちらの本)
Theories of Childhood, Second Edition: An Introduction to Dewey, Montessori, Erikson, Piaget & Vygotsky (Redleaf Professional Library)
Theories of Childhood, Second Edition: An Introduction to Dewey, Montessori, Erikson, Piaget & Vygotsky (Redleaf Professional Library)Carol Garhart Mooney

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January 17, 2016

プログレッシブ教育 (3) ピアジェ

Jean Piaget ジャン・ピアジェ(Born in Switzerland, 1896~1980)

幼少時から科学者としての才能を開花させ、11才には論文を書いた。しばしばピアジェは心理学者とよばれるが、認識論者(人間の知識・認識の起源や方法を探求する学問)といったほうが正しい。たとえば通常は子どもが「何を」知っているか、「いつ」それを認識したか、を研究するが、認識論では「どうやって」その知識を獲得・認識するに至ったのか、を研究する

当時多くの学者が知能は本来人間に備わっているのか?または大人からの伝授で知能が発達するのか?を議論していた時、ピアジェはそれはどちらでもなく、子どもは環境との直接的な関わりから学ぶと説いた。子どもは知能を自分自身を身の回りのモノ・ヒト・場所などかかわったものすべてから創造・建設するのだ。子どもは大人から説明を受けるより、己で手を動かし作業することで真に物事を理解できる

ピアジェはモンテッソーリ教育を学び(Swiss Montessori Societyの代表だったこともある)意義ある実作業(=お仕事)こそが子どもを知的に発達させるというモンテッソーリのアイデアを自身の基礎とした。大人に教わるのではなく子どもが自分自身で興味をもって探求・作業する事が必要で、そうやって学ぶ時が最も子どもにとって効果があると唱えた。

ピアジェは学びの場としての遊びの時間を重要視。ごっこ遊びで自分達のまわりにある物と現実を結びつけたり(砂場でケーキをつくる・ホースで消防士の真似をする等)遊ぶ中でトライ&エラーを繰り返し、何のためにそれがあって何の役に立っているかを徐々に理解していく。

エリクソンと同じく、ピアジェもすべての人間は(子どもによって多少発達のスピードに差はあるものの)同じ過程をたどって認識発達を遂げ、知的発達は身体的発達と関係があり、子どもが置かれた環境に影響されるとした。以下はピアジェ的認識発達段階表

Stages of Cognitive Development (認識発達段階)
知能・思考点問題解決能力の発達のしかた
Age Stage Behaviors
誕生〜2才 Sensorimotor
感覚運動段階
感覚・反応から学ぶ。手で学ぶ
2〜7才 Preoperational
前操作段階
知覚からアイデアを形成。一度に一つのことしかできない。限定された経験から一般化し過ぎる傾向
7〜11, 12才 Concrete Operational
具体的操作段階
論拠をもってアイデアを形成できる。物事・よく知っている事への限られた思考
11, 12才以上 Formal Operational
形式的操作段階
抽象的・仮定的思考ができる


The Sensorimotor Stage (誕生〜2才ごろ:感覚運動段階)

人間がこの世に生まれた初期段階は非常に感覚・反射的な時期にある。知性が生まれるのはこの感覚・反応が目的を持ちだす時である。たとえば赤ちゃんは最初手や足でただガラガラやベルを鳴らすものだが、この行為をわざとやりだした時、そこには知性が生じている。この初期段階では赤ちゃんは感覚的に世界を理解しはじめる

この初期段階の終わりにかけて、対象の永続性(Object Permanence)が生じる。これは非常に重要な発達。人生の初期段階にある子どもにとって、目の前にあるものが世界の全てであり、目の前からそれが無くなるとこの世から無くなったことになるのでパニックに陥る。

しかし8〜9ヶ月の赤ちゃんにもなると、大騒ぎすることなくわざと食卓からスプーンを落として遊ぶ行為が見受けられる。「目の前からモノが無くなってもちゃんとそこにある」ことがわかっているので、それが面白くてこれを何度もくりかえすのだ。このObject Permanenceはいわば知的刺激への喜びの第一歩!

Separation Anxiety(保育者との別離への不安)も同じ理由。この段階の赤ちゃんに必要なのは決まった日常・人・場所との関わり。デイケアやベビーシッターをコロコロ変えたりしない。決まった時間に必ず親が戻ってくる。そうやって一定の日課を繰り返せば赤ちゃんも安心しだんだん分離も簡単になるが、あんまり泣くからといってこのデイケアorシッターが悪いんだわ、的に場所や人を変えてしまうと赤ちゃんには更なる苦しみが待ち受ける


The Preoperational Stage (2〜7才ごろ:前操作段階)

★エゴセントリズム(Egocentrism)
自分をとりまく事を自分中心にしてしか考えられない。いわゆる「会話のキャッチボール」ができない ー 誰かが言ったことの中で自分が知っている事があれば、その事柄について言い、それを聞いた他の子どもがその会話の中から知っている事柄を抽出してそのことをしゃべる、このループ
(例)
先生: きょうは今月のテーマ「青」に関するいろいろな物を持ってきましたよ。イーゼルには青い絵の具を置いておいたから使ってみて。「ラプソディ・イン・ブルー」のCDをCDプレイヤーにセットしてありますからこちらも聴いてみてね。
子どもA:わたしのママの車は青よ。
子どもB:ぼくのママの車はきのう壊れちゃった。
子どもC :うちのテレビも壊れた。
先生・子どもAへ聞く:ママの車は青なのね?
子どもA:きのうテレビでライオンを見た。

自分が嬉しい事は他人も嬉しいと思っている。 たとえば自分がクマのぬいぐるみが欲しければ、祖母もクマのぬいぐるみをほしいと思っている、きっと喜ぶ。


★言われたことではなく、自分自身で経験したことを理解吸収する(Equilibrium)

この時期の子どどもは説明された事よりも自分で直接経験する事を積み重ねて理解・吸収するので、子ども自身が答えを見つけられるよう大人は手助けするほうが効果的。

不均衡(Disequilibrium)と均衡(Equilibrium)

子どもは常に外の世界と自分の中での理解の均衡を経験を積むことによって見つけようとしている。たとえばこの年の子どもが「犬が吠えた時、鳥の群が飛び立つ」事象をよく見るので、彼は「鳥が飛び立つのは犬が吠えるから」と理解している。この状況はこの情報は彼が新たな経験をそれ以上にする事によって「鳥の群が飛び立つのは犬が吠える時ばかりではない」という理解を生じさせる。ピアジェはこの新しい情報へ適応し安定がとれた状態を「均衡(Equilibrium) 」とした。

同じスキームの中で自ら経験させる、どうやって、なぜそれがそうなったのか?どうやったらそれができるのか?やさしいものからだんだん難しくしていき、理解を深めていけるよう、活動を助けてあげること。


★一般化できない(Overgeneralize)

ピアジェはこの年ごろの子どもたちは経験の足りなさからその限られた経験に基づく間違った一般化をしがちであると示した。

・・・・・・

【例1・髪を「切る」】

たとえばこの頃の子どもたちが美容院で髪を切るのを怖がるのは「切る」という言葉に対する経験の少なさからである。子どもは膝を切ったり指を切ったりした経験があったり、血が出るのをみたことがある。キッチンの包丁は指を切る、危ないものだから使わせてもらえない。祖母の家にあるよく切れるハサミも使わせてもらえない。なのに私の髪を「切る」だって?!?!ーという思考回路なのだ

・・・・・・

【例2・アイロン】

あるクラスで妹が生まれる生徒がいるので、先生は新生児の写真をクラス全員に見せた。子どもたちはあかちゃんがどんなにフワフワして、シワがたくさんあって折れ曲がった状態かを口々に話しあった。その時、ある男の子が言った、

「この赤ちゃんのお母さんはアイロンで赤ちゃんのシワをのばしてあげなくちゃ!」

この発言についてクラスの誰も笑わなかったし、なんてひどいこと言うの、そんな事したら赤ちゃんがケガしちゃうわ!とも誰も言わなかった。

そのかわりもうひとりの男の子がいった「ぼくのお姉ちゃん、アイロンでよく髪をクルクルにしているよ。」

女の子が言った「アイロンは髪に使うものではないわ。お洋服のシワを伸ばすのよ。」

子どもたちは明らかにアイロンが髪のカールや服のシワを伸ばす良いツールで、赤ちゃんに使うものではない、という関係性を理解していなかった。そこで先生は「アイロンを赤ちゃんに使ったらケガをさせてしまうわ」という答えを与えるかわりにこう質問した

「お洋服にアイロンを使うとき、どれくらいアイロンは熱いかしら?」
「もしあなたの肌にアイロンをくっつけたら、どう感じるかしら?」
「赤ちゃんには肌があるかな?もしその肌にアイロンをくっつけたら、赤ちゃんはどうなるかしら?」

子どもたちはすぐさま、アイロンは人間の肌に押し当てるものではないし、アイロンで赤ちゃんの肌のシワを伸ばせるものではないと理解した。

・・・・・・

上記の話は、子どもに答えを直接与えるより、自分で考えて答えを導き出すように大人は効果的に子どもに問いかけるべきであることをよく示している。 この時期の子どもたちは人生の経験の少なさから、ひとつのモノを一般化できないので、大人からの適切な質問によって自分の中でひとつひとつを理解していく手助けが必要。


★まとまった遊びの時間(Large blocks of free-play time)

モンテッソーリがお仕事(Work)と呼んだものをピアジェは遊び(Play)と呼んだ。どちらにも共通するのは、遮断されることのないまとまった時間を子どもに与え、自由に活動させること。

いちいち全てを片付けるのではなく、やりかけのワークをそれを終わらせるまで床に置いたままにしておくことも大切。子どものヤル気を削がない、努力を中断させない


★現実の世界を経験(Real world experience)

しばしばモンテッソーリはごっこ遊びを禁じたといわれるが、彼女が無意味としたのは魔法の杖をひと振りするようなごっこ遊びで、現実に基づいたごっこ遊びであれば問題ないとした、これはピアジェも同じで、ごっこ遊びから現実の事柄を理解していくとした(冒頭の消防士の例)

わたしたちの日常の世界を広げてあげるような経験を与える:たとえば現実に農場を訪れてみて干し草の香りを嗅ぐ、牛の大きさを見て鳴き声を聞き、お乳を触って牛乳を搾ってみる、牛乳がパックに詰められトラックに乗せ出荷される様子の見学は、牛や牛乳に対して全く違った視点を子どもに与えられる

本で様々な乗り物の写真を見るだけでなく、実際に地下鉄・飛行機・タクシー・バス・トラックに乗る経験が重要


★オープンエンドの活動、質問(Open-ended activities, questions)

何度も繰り返して試せる。これをやったらどうなるのか?答えの決まっていない実験、活動。教師の質問もイエス・ノーで答えられるものではなく、How系の質問をする



プログレッシブ教育(4)ヴィゴツキーへ

January 14, 2016

プログレッシブ教育 (2) エリクソン

Erik Erikson エリック・エリクソン(Born in Germany, 1902~1994)

もともとはアーティスト&教師だったが、フロイトの娘のアンナに出会ってから心理学に興味をもつようになる。アンナはエリクソンに精神分析を学ぶことをすすめ、結果エリクソンはウィーン精神分析研究所で子どもの精神分析家の資格を得る

1933年にアメリカに移民、ハーバード医学部、イエール大学の教員を歴任。アイデンティティの概念を初めて世に提唱。子どもの精神分析家から出発し、発達心理学はもとより、自身が老いるにつれ人間が老いる段階でいかに生産的な人生を送れるかも研究した。

エリクソンが唱えた人間の社会心理的発達は「8つの人間の発達段階(The Eight Ages of Man)」としてまとめられた。これはすべての人間が生まれてから死ぬまでの期間を8つに分割し、各段階にどの部分が社会心理的に発達するか、しなければならないか、を定義づけたもの。

各段階において人間には成すべき課題があり、各段階が次の段階に影響を与える。前段階で成すべき課題が到達されていれば、次の段階でも上手く成長する。また、たとえある段階で正常な発達ができなくても、次のステージで正しい関係や環境に恵まれれば大丈夫。

Stages of Psychosocial Development(社会心理的発達段階)
Age Stage Strength Developed
誕生〜12ヶ月 信頼 vs 不信 希望
1~3 自治 vs 恥と疑念 意志
3~6 主導 vs 罪悪感 目的
6~11 勤勉 vs 劣等感 能力
思春期 アイデンティティvs役割の混乱 忠誠
成人期 親密 vs 隔離
中年期 生殖 vs 自己専心 世話
老年期 完全 vs 絶望 英知


誕生〜12ヶ月:信頼 vs 不信 (Trust vs Mistrust)

この時期に必要な事は赤ちゃんが世界を信頼できるようにケアすること。エリクソンはこの時期の信頼には2種類あると言う:ひとつは外的信頼、もうひとつは内的信頼

外的信頼とは、常に特定の大人が赤ちゃんのニーズを満たしてくれる事への信頼感
内的信頼とは、赤ちゃん自身が自分の能力を信じる力。自分の力が周りに与える影響力、あらゆる状況に耐えられうる力があると信じられること。

赤ちゃん自身が、わたしが生まれてきたこの世界は良いところだ〜!と思えたら、次の1年は大丈夫☆

アタッチメント、温かな肌のふれあいが赤ちゃんとの信頼を築く。赤ちゃんの要求にすぐに反応してあげること。寝返り、ハイハイ、つかまり立ちなど、動く練習を存分にさせてあげること。この時期に赤ちゃんの全ての要望に応えることは決して甘やかしではなく、自分に対する愛や信頼を強固なものとする。愛と信頼が芯に根付いた赤ちゃんは、人生2年目には大人や世界を信じているので、少しずつ待ったり、我慢したりできる。この信頼感が欠けている事こそが次の年代のギャーギャーの原因に

新たなものに出会う、見る、知ることは赤ちゃんにとっては怖い、でもそばにいつも同じ大人がいる、いつも要望に応えてくれる。そうやって大人が大事にしてくれれば、赤ちゃんは安心して身の回りの世界を探索できる

この時期に自分や自分に近い大人を信じられることが、次の段階の自立心を育むベースとなる。この時アタッチメントに失敗した場合、その後他人や事物に対する共感力が欠ける

特定の少人数の大人との強いアタッチメントが不可欠。そしてそれこそが次の段階の自律・自立とつながる。のちにその大人と離れることになっても基礎があるので大丈夫。

このエリクソンの説は、昼間働くお母さんが預けるデイケアの先生方が、どんなふうに新生児に接すればよいかの良い指標になりますね!




1〜3才:自治 vs 恥・疑念 (Autonomy vs Shame and Doubt)

いわゆるトドラー(Toddler)。この時期の子どもは恥辱や疑念に苦しむことなく自律性・自主性を獲得しなければならない

第1ステージを良く生きた子どもたちは、強い自己肯定感を獲得している。彼らは限られた時間であればいつも一緒の大人たちと難なく離れることができる

イヤイヤ期は強い自己主張の現れなので喜んで! 

とても独立心が強いふるまいをしたかと思ったら、次の瞬間はやたらすがりついてきたりする。これはこの時期の子どもたちが事物をキープしたり、手放したり、を繰り返し実験しているからである

保持する事も、手放す事も、ある時は良く、ある時は悪くも作用する:例

保持する→ 支配・ガンコ・非協力的態度 vs アタッチメント・苦痛に絶えうる精神力・粘り強さの素

手放す→かんしゃく・怒りを抑えられない・叩く・噛む vs シェアできる・協力的・譲る

子どもはこういった保持する・手放す実験を繰り返して、どう生きるかのバランスを探している ー ここで適切な実験を繰り返さないと、その後の選択・保育者との関係・お友達との物事のシェア・トイレトレーニングに支障をきたす

適切な実験を繰り返せない状況とは、大人が障壁となって介入するからである ー この時期の子どもたちの気ままな様子は大人にとっては堪え難い一貫性の無さのため、指示・命令・権力・威圧で言うことを聞かせようとし、これが大問題。そのような大人のもとでは子どもは自由に依存・自立のバランスを実験できないからである(子どもは言われたことより、自分でやったことから学ぶんでしたね!)

この時期の子どもたちには、適切な選択肢と、自らが自由にその中から選択、操作するチャンスが必要

この時期はホントーに大切!!

なぜならエリクソンによれば、この時期を如何に過ごすかで生涯に渡っての

愛:憎しみ
協力的:非協力的
感情表現:感情を抑える

などの精神の割合が決められてしまうから!!

この時期を、自己コントロール力を自尊心損なうことなく上手く発達させた子どもは、強い自己肯定感を得られるので、 その後も自分に自信を持ち続けることができる。もし失敗すると自分を信じられない、自信のない人間になってしまう。

行き過ぎない自己肯定感・自尊心は、前向きで健康な精神に不可欠なのです



3〜6才:主導 vs 罪悪感(Initiative vs Guilt)

きました〜〜モンテッソーリのプライマリー・エイジ!どの教育・心理・精神学者たちもこの時期を分離し指摘しているのは、やっぱりこの3〜6才が"何かある!" マジカルな時期、非常に大切ということなのでは

エリクソンによればこの時期に子どもたちが獲得しなけばいけないのは「a sense of purpose=目的意識」

3〜6才の子どもたちはヤル気に満ちていて、学びの準備ができている。他のステージに比べて反抗心の割合が少なく先生や大人・まわりのお友達から「学びたい!吸収したい!(まさにabsorbent mind!)」気持ちのほうが強い

失敗にこだわることなくどんどんやれる。第2段階を乗り越え自己肯定感を得ているため、自分の目的のために着実に行動するよりも、とにかく物事をどんどんやって終わらせて行きたい傾向にある。

この時期たくさんの物事を吸収した子どもは後に自信と能力を発揮させる。彼らは自分で計画し、終えられることを信じられる。羞恥心や罪悪感を感じる事なく失敗から学び、失敗に絶えうる精神力を得る

攻撃的な態度・振る舞いがトドラーの頃より減り、ヤル気に満ち、大人に従うことが好きな時期なので、先生や親には扱いがラクなように見えるが、実はこの時期はメチャクチャ重要・・・この時期に生涯に渡って栄光を得るか、破滅するかの二手に人生わかれてしまうからである

もしもまわりの大人がこの時期の子どもたちの活力を良い方向に使わせてあげられれば、子どもたちは自信を持ち、能力を発揮するだろう。しかしもし大人が新たなスキルを獲得しようとしている子どもたちの失敗や未熟に焦点を当て非難するならば、彼らの創意は罪悪感と落胆に早変わりするだろう

せっかくの子どものヤル気を削ぐような大人はいない、とあなたは思っているかもしれない。でもあなたのちょっとした行動が子どもを落胆させ、自信を奪っている事は多々ある。潔癖すぎる大人は子どもにプレッシャーを与える。子どもが何か失敗した時、あなたの顔は笑っているかもしれないが、心が受容していない事を子どもは感じている。大人の強い警戒心や用心は、子どもがあなたに承認されていない事を感じるのを助ける


子ども自身の価値ではなく、その子どもが何をしたかの価値に重きを置かれ判断される事を子どもたちは感じている。その時子どもたちのクリエイティビティはダメージを受けないかもしれないが、子どもの心は「できなかった」罪悪感と不適正という感情を植え付けられるのだ

3〜6才児・エリクソン的注意点まとめ

・独立心を育む
・できた事に注目し、失敗をいちいち取り立てないー失敗していいんだ、そこから学ぶことがあるのだという姿勢を大人が自ら見せる
・それぞれの子どもの能力に見合った適度な期待を向ける
・現実の世界に沿った活動をする


プログレッシブ教育(3)ピアジェへ

January 12, 2016

プログレッシブ教育 (1) デューイ

「プログレッシブ教育:進歩的な、前進・漸進的な教育」

反対語は「トラディショナル教育:伝統的な教育」

生徒は定位置に座り、先生が生徒の前に立って知識を伝授する方法、つまり教師中心・知識という情報伝授が中心の教育。

プログレッシブ教育の柱は子どもが教室の中心・体験学習で、モンテッソーリ教育の他にもウォードーフ(シュタイナー)教育、レッジョ・エミリアなど、様々な実験的教育法が存在します。

私は今AMSのモンテッソーリ教師資格取得のために、School Observationといって、モンテッソーリ校を自分で4校選び訪問させてもらい、クラスルームを観察してレポートをインストラクターに出さないといけないという課題に取り組んでいます。でも観察した事をただ、あーだった・こーだった、というレポートではダメで、歴代のプログレッシブ教育学者の論説と、自分が観察した内容をひもづけてパラグラフを書かなければならず、歴代のプログレ教育学者の学説がどれも似たり寄ったり(失礼・笑)なので、自分の中で整理して、観察事実と照らし合わせて・・・というのにエラく時間がかかってしまってます(涙)

と、いうことでこのエントリーは次のレポートのための自分へのメモ。

プログレッシブ・4大教育学者(ホントは5=モンテッソーリを含めるのだけど、このブログはモンテッソーリがテーマなのでここでは割愛)の各セオリーまとめ。私の他にも教育系の勉強をしている方のお役に立てば嬉しいです


(1) John Dewey ジョン・デューイ(Born in the U.S., 1859~1952)

プログレッシブ教育といえばこの人!笑

1900年代アメリカにおけるプログレッシブ教育発展を担った中心的存在(その頃ヨーロッパではモンテッソーリやピアジェが同じようなメッセージを発信)

1800年代の厳格な伝統的教育に対する反動としてのプログレッシブ教育法を考案・実践、シカゴ大学に"Laboratory School"を開校しアメリカにおけるプログレッシブ教育ムーブメントの中心となった。1904年教育費予算について大学事務とモメてシカゴ大学離職、コロンビア大学に移籍し研究を続けた。


Child Centered Education
従来(伝統的教育法・今でもそうかも)は先生が前に立って子どもを並べ、知識を教授することが教育であったが、真の学びは子ども自身で行われる。子どもが教室の中心となって実際に手を動かして活動し、教師はその活動の手助けをする教育が真の学びを助ける

Children learn from "Doing," not listening
子どもは先生の話を聞いて学ぶのではなく、実際やってみることで学ぶ

Real-life tools, materials and experiences
子どもは現実の生活に根付いた実際的な道具を使い、その経験から学ぶ

Individualized Curricula
 個々の個性・発達段階に合ったカリキュラム

Observation is essential
教師は学問的な知識を己に蓄積する事のみならず、個々に合ったカリキュラムのためにはまず教師がよく子どもを観察し、発達段階や個性を把握すること

Don't be afraid of using your knowledge in the classroom
教師は己の持てる知識を教室で充分使うこと

Make sense of the world for children
教師は自己の知識と経験を使い、子ども達に彼らが生きるこの世界・世の中というものを把握させる必要がある

Education must involve the social world of the child and community
社会と子どもを結びつける教育を!

Plan purposeful activities — "Have Fun" is not enough
楽しいだけの活動ではなく、目標・目的のある活動を提供せよ・・・この活動によってどうこの子どもの発達を助けられるか?どんなスキルが身につくのか?子どもたちが社会に出る準備になるか? 社会と子どもを結びつけられるか?

Observation, organization and documentation
教師に必要なものは観察力、構成・編集力、文書化する能力


デューイの唱えた教育法は子どもにあまりに多くの自由奔放を許し、それをしっかり監督する教師の不在が批判された、つまり教師自身のクオリティが非常に重要ということ。教師の観察力、学問的・社会的知識、学習内容の構成力、リーダーシップ、共感力、品性などで、そのクラスルームの善し悪しが決まってしまう事、良い教師の不在を本人も認めていた。これは他のプログレッシブ教育もはらむ共通の問題点として留意しておくこと。子ども中心の教育を機能させるには、教師もやはり重要な環境の一部ということですね


プログレッシブ教育その(2) エリック・エリクソンへ

January 8, 2016

トミー・ウンゲラー



トミー・ウンゲラーが大好きで、娘が小さい頃からたくさん彼の絵本を買って読み聞かせている。フランス・ストラスブール生まれのトミーはイラストレーターであり作家。1950年代にアメリカへ移住した後、ニューヨーカーマガジン、ニューヨークタイムズ、エスクワイヤやハーパーズ・バザールの挿絵や児童向け図書の出版で一躍有名になり、彼の絵本は今でも世界中で翻訳・出版されている。


ウンゲラーの絵本の魅力はもちろんその絵、とても子ども向けとは思えない(笑)と、ストーリーの破天荒さ。日本のアニメっぽい絵やいわゆる「キャラクターもの」に慣れてしまった人にはちょっと理解できない世界かも



私も娘も大好きな「ゼラルダと人喰い鬼」では、子どもを食べるのが大好きな人喰い鬼と、6才のゼラルダがひょんなことから出会い、ゼラルダの得意なお料理で人喰い鬼を魔法にかけてしまう


「ゼラルダはお料理が大好き、むっつになる頃までには、煮たり、焼いたり、揚げたり、蒸したりできました」という表現に5才の娘はとりつかれ、「6さいまでにお料理できるようになるの!」と、何度もこのページを読んでと言ってたっけ。そしてゼラルダのお料理のページのすてきなこと!!



ウンゲラーといえばコレ


この「すてきなさんにんぐみ」も、エエ〜?!という展開でひっくり返りまくり、そしてそれこそがウンゲラーの本の魅力!色、人物、構成、どれをとってもアーティスティックで、こんな本に小さな頃出会えたら私の人生も変わっていたかも(笑)



「月おとこ」より。これも初めて読んだ時は娘と一緒に「それ?!?!」とゲラゲラ(笑



絵が本当に魅力的(と私は思うけど、いわゆる日本的なカワイイ系ではとてもじゃないけど無いです)

ストーリーにはかなり社会的なテーマも含まれているので、子どもが成長する中で時折読み返すと、子ども自身に様々な発見がありそう。戦争をテーマにした「オットー」などの作品も多数

どの作品にも違う味わいがあり、これがひとりの作家の仕事だと思うと、才能にただただ感服するばかり。オススメです!

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January 4, 2016

いのちのひろがり


福音館書店が大好きです。子どもが小さい頃は「こどものとも」シリーズ、小学生になった今は「たくさんのふしぎ」 シリーズを年間購読しています。中でも去年4月に出たこちら、「いのちのひろがり」は、モンテッソーリで育っている子どもたちには秀悦の一冊。「生命の歴史年表」が素敵な1冊になった感じです♪


わたしたち人間がどうやって生まれたのか、先カンブリア時代からさかのぼります。この時代長過ぎだけど、こうやって見ると、きっと大きめに進化したのに死んでしまった細胞もたくさんあったんだろうね〜と子どもと話したりします。絵がすてき


先カンブリア時代からカンブリア時代へ、、この生き物たち、人間のイマジネーションなんてやっぱり自然を超えられないって思ってしまう


植物の出現もしっかりカバー。アニメの世界!?


古生代、中生代とつづきます


中生代に栄えた恐竜にも絶滅の日がやってきます。こうしてすべてが滅び、その中で生き残ったものが再び栄える、そういう時を繰り返して今のわたしたちと、私たちが目にする生きものたちがこの世の中に存在しているのです


わたしたちが今ここに生きているのは偶然ではなない気がしますよね。

「たくさんのふしぎ」シリーズ、本当におすすめです!

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