January 17, 2016

プログレッシブ教育 (3) ピアジェ

Jean Piaget ジャン・ピアジェ(Born in Switzerland, 1896~1980)

幼少時から科学者としての才能を開花させ、11才には論文を書いた。しばしばピアジェは心理学者とよばれるが、認識論者(人間の知識・認識の起源や方法を探求する学問)といったほうが正しい。たとえば通常は子どもが「何を」知っているか、「いつ」それを認識したか、を研究するが、認識論では「どうやって」その知識を獲得・認識するに至ったのか、を研究する

当時多くの学者が知能は本来人間に備わっているのか?または大人からの伝授で知能が発達するのか?を議論していた時、ピアジェはそれはどちらでもなく、子どもは環境との直接的な関わりから学ぶと説いた。子どもは知能を自分自身を身の回りのモノ・ヒト・場所などかかわったものすべてから創造・建設するのだ。子どもは大人から説明を受けるより、己で手を動かし作業することで真に物事を理解できる

ピアジェはモンテッソーリ教育を学び(Swiss Montessori Societyの代表だったこともある)意義ある実作業(=お仕事)こそが子どもを知的に発達させるというモンテッソーリのアイデアを自身の基礎とした。大人に教わるのではなく子どもが自分自身で興味をもって探求・作業する事が必要で、そうやって学ぶ時が最も子どもにとって効果があると唱えた。

ピアジェは学びの場としての遊びの時間を重要視。ごっこ遊びで自分達のまわりにある物と現実を結びつけたり(砂場でケーキをつくる・ホースで消防士の真似をする等)遊ぶ中でトライ&エラーを繰り返し、何のためにそれがあって何の役に立っているかを徐々に理解していく。

エリクソンと同じく、ピアジェもすべての人間は(子どもによって多少発達のスピードに差はあるものの)同じ過程をたどって認識発達を遂げ、知的発達は身体的発達と関係があり、子どもが置かれた環境に影響されるとした。以下はピアジェ的認識発達段階表

Stages of Cognitive Development (認識発達段階)
知能・思考点問題解決能力の発達のしかた
Age Stage Behaviors
誕生〜2才 Sensorimotor
感覚運動段階
感覚・反応から学ぶ。手で学ぶ
2〜7才 Preoperational
前操作段階
知覚からアイデアを形成。一度に一つのことしかできない。限定された経験から一般化し過ぎる傾向
7〜11, 12才 Concrete Operational
具体的操作段階
論拠をもってアイデアを形成できる。物事・よく知っている事への限られた思考
11, 12才以上 Formal Operational
形式的操作段階
抽象的・仮定的思考ができる


The Sensorimotor Stage (誕生〜2才ごろ:感覚運動段階)

人間がこの世に生まれた初期段階は非常に感覚・反射的な時期にある。知性が生まれるのはこの感覚・反応が目的を持ちだす時である。たとえば赤ちゃんは最初手や足でただガラガラやベルを鳴らすものだが、この行為をわざとやりだした時、そこには知性が生じている。この初期段階では赤ちゃんは感覚的に世界を理解しはじめる

この初期段階の終わりにかけて、対象の永続性(Object Permanence)が生じる。これは非常に重要な発達。人生の初期段階にある子どもにとって、目の前にあるものが世界の全てであり、目の前からそれが無くなるとこの世から無くなったことになるのでパニックに陥る。

しかし8〜9ヶ月の赤ちゃんにもなると、大騒ぎすることなくわざと食卓からスプーンを落として遊ぶ行為が見受けられる。「目の前からモノが無くなってもちゃんとそこにある」ことがわかっているので、それが面白くてこれを何度もくりかえすのだ。このObject Permanenceはいわば知的刺激への喜びの第一歩!

Separation Anxiety(保育者との別離への不安)も同じ理由。この段階の赤ちゃんに必要なのは決まった日常・人・場所との関わり。デイケアやベビーシッターをコロコロ変えたりしない。決まった時間に必ず親が戻ってくる。そうやって一定の日課を繰り返せば赤ちゃんも安心しだんだん分離も簡単になるが、あんまり泣くからといってこのデイケアorシッターが悪いんだわ、的に場所や人を変えてしまうと赤ちゃんには更なる苦しみが待ち受ける


The Preoperational Stage (2〜7才ごろ:前操作段階)

★エゴセントリズム(Egocentrism)
自分をとりまく事を自分中心にしてしか考えられない。いわゆる「会話のキャッチボール」ができない ー 誰かが言ったことの中で自分が知っている事があれば、その事柄について言い、それを聞いた他の子どもがその会話の中から知っている事柄を抽出してそのことをしゃべる、このループ
(例)
先生: きょうは今月のテーマ「青」に関するいろいろな物を持ってきましたよ。イーゼルには青い絵の具を置いておいたから使ってみて。「ラプソディ・イン・ブルー」のCDをCDプレイヤーにセットしてありますからこちらも聴いてみてね。
子どもA:わたしのママの車は青よ。
子どもB:ぼくのママの車はきのう壊れちゃった。
子どもC :うちのテレビも壊れた。
先生・子どもAへ聞く:ママの車は青なのね?
子どもA:きのうテレビでライオンを見た。

自分が嬉しい事は他人も嬉しいと思っている。 たとえば自分がクマのぬいぐるみが欲しければ、祖母もクマのぬいぐるみをほしいと思っている、きっと喜ぶ。


★言われたことではなく、自分自身で経験したことを理解吸収する(Equilibrium)

この時期の子どどもは説明された事よりも自分で直接経験する事を積み重ねて理解・吸収するので、子ども自身が答えを見つけられるよう大人は手助けするほうが効果的。

不均衡(Disequilibrium)と均衡(Equilibrium)

子どもは常に外の世界と自分の中での理解の均衡を経験を積むことによって見つけようとしている。たとえばこの年の子どもが「犬が吠えた時、鳥の群が飛び立つ」事象をよく見るので、彼は「鳥が飛び立つのは犬が吠えるから」と理解している。この状況はこの情報は彼が新たな経験をそれ以上にする事によって「鳥の群が飛び立つのは犬が吠える時ばかりではない」という理解を生じさせる。ピアジェはこの新しい情報へ適応し安定がとれた状態を「均衡(Equilibrium) 」とした。

同じスキームの中で自ら経験させる、どうやって、なぜそれがそうなったのか?どうやったらそれができるのか?やさしいものからだんだん難しくしていき、理解を深めていけるよう、活動を助けてあげること。


★一般化できない(Overgeneralize)

ピアジェはこの年ごろの子どもたちは経験の足りなさからその限られた経験に基づく間違った一般化をしがちであると示した。

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【例1・髪を「切る」】

たとえばこの頃の子どもたちが美容院で髪を切るのを怖がるのは「切る」という言葉に対する経験の少なさからである。子どもは膝を切ったり指を切ったりした経験があったり、血が出るのをみたことがある。キッチンの包丁は指を切る、危ないものだから使わせてもらえない。祖母の家にあるよく切れるハサミも使わせてもらえない。なのに私の髪を「切る」だって?!?!ーという思考回路なのだ

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【例2・アイロン】

あるクラスで妹が生まれる生徒がいるので、先生は新生児の写真をクラス全員に見せた。子どもたちはあかちゃんがどんなにフワフワして、シワがたくさんあって折れ曲がった状態かを口々に話しあった。その時、ある男の子が言った、

「この赤ちゃんのお母さんはアイロンで赤ちゃんのシワをのばしてあげなくちゃ!」

この発言についてクラスの誰も笑わなかったし、なんてひどいこと言うの、そんな事したら赤ちゃんがケガしちゃうわ!とも誰も言わなかった。

そのかわりもうひとりの男の子がいった「ぼくのお姉ちゃん、アイロンでよく髪をクルクルにしているよ。」

女の子が言った「アイロンは髪に使うものではないわ。お洋服のシワを伸ばすのよ。」

子どもたちは明らかにアイロンが髪のカールや服のシワを伸ばす良いツールで、赤ちゃんに使うものではない、という関係性を理解していなかった。そこで先生は「アイロンを赤ちゃんに使ったらケガをさせてしまうわ」という答えを与えるかわりにこう質問した

「お洋服にアイロンを使うとき、どれくらいアイロンは熱いかしら?」
「もしあなたの肌にアイロンをくっつけたら、どう感じるかしら?」
「赤ちゃんには肌があるかな?もしその肌にアイロンをくっつけたら、赤ちゃんはどうなるかしら?」

子どもたちはすぐさま、アイロンは人間の肌に押し当てるものではないし、アイロンで赤ちゃんの肌のシワを伸ばせるものではないと理解した。

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上記の話は、子どもに答えを直接与えるより、自分で考えて答えを導き出すように大人は効果的に子どもに問いかけるべきであることをよく示している。 この時期の子どもたちは人生の経験の少なさから、ひとつのモノを一般化できないので、大人からの適切な質問によって自分の中でひとつひとつを理解していく手助けが必要。


★まとまった遊びの時間(Large blocks of free-play time)

モンテッソーリがお仕事(Work)と呼んだものをピアジェは遊び(Play)と呼んだ。どちらにも共通するのは、遮断されることのないまとまった時間を子どもに与え、自由に活動させること。

いちいち全てを片付けるのではなく、やりかけのワークをそれを終わらせるまで床に置いたままにしておくことも大切。子どものヤル気を削がない、努力を中断させない


★現実の世界を経験(Real world experience)

しばしばモンテッソーリはごっこ遊びを禁じたといわれるが、彼女が無意味としたのは魔法の杖をひと振りするようなごっこ遊びで、現実に基づいたごっこ遊びであれば問題ないとした、これはピアジェも同じで、ごっこ遊びから現実の事柄を理解していくとした(冒頭の消防士の例)

わたしたちの日常の世界を広げてあげるような経験を与える:たとえば現実に農場を訪れてみて干し草の香りを嗅ぐ、牛の大きさを見て鳴き声を聞き、お乳を触って牛乳を搾ってみる、牛乳がパックに詰められトラックに乗せ出荷される様子の見学は、牛や牛乳に対して全く違った視点を子どもに与えられる

本で様々な乗り物の写真を見るだけでなく、実際に地下鉄・飛行機・タクシー・バス・トラックに乗る経験が重要


★オープンエンドの活動、質問(Open-ended activities, questions)

何度も繰り返して試せる。これをやったらどうなるのか?答えの決まっていない実験、活動。教師の質問もイエス・ノーで答えられるものではなく、How系の質問をする



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